東京芝1600メートルが舞台のNHKマイルCは、スピードや切れだけではなく、総合力が求められる-。水島晴之「G1の鍵 その一瞬」は、ファルコンS9着シュトラウス(牡、武井)に注目した。新馬を9馬身差で逃げ切ったスピード馬だが、前走は控える競馬で0秒8差。前が詰まって脚を余したが、操縦性には進境を見せた。「東京のマイル仕様」となって巻き返しはあるのか。検証する。

シュトラウスは美浦ウッドを単走で追い切られた
シュトラウスは美浦ウッドを単走で追い切られた

シュトラウスは規格外のスピードが「もろ刃の剣」となっている。新馬戦は向正面でハナを奪うと、不良馬場にもかかわらず、ラスト3ハロンをすべて11秒台でまとめて2着に9馬身差をつけた。一方、朝日杯FS(10着)では出遅れ→掛かって→失速。ポテンシャルの高さは言うまでもないが、強さともろさが背中合わせ。前進気勢が強すぎるあまり、競馬の流れに「大きな」走りが収まっていない印象を受けた。

このコントロール性を上げるため、坂路では馬の後ろで我慢させたり、いろいろ工夫しながら調整している。そのかいあって前走のファルコンSでは一定の成果を出した。スタートから出していくのではなく、馬群から離れた最後方で走りのリズムを重視。掛かる面も抑えられてしっかり脚はたまった。直線はスペースがなくほとんど追えなかったが、進路があれば上位に食い込める手応えだった。

前半のスピードを、後半の瞬発力に変える。そんな競馬ができたのは収穫だ。負けはしたが、本番に向けてはいい「予行練習」ができた。東京のマイル戦はバックストレッチが長く、特にG1ではタフな流れになる。そのラップを維持したままラスト600メートルの攻防に入るため、スピード、切れだけでは通用しない。総合力が要求される。もともとスピード能力の高い馬。レースの中で「オフ」タイムができれば、それこそ鬼に金棒だ。

その進化は調教でもうかがえる。1週前の24日は美浦ウッドで6ハロンから13秒8、13秒6、14秒0と我慢の利いた走りで、ラスト1ハロンは馬なりのまま11秒2。前走で控える競馬をした経験が生きた。「東京のマイル仕様」になったシュトラウスが、折り合いという新たな武器を手に、真の実力を示す。

■ここが鍵 着順より内容

過去10年、前走から連勝で決めた馬は14年ミッキーアイル、22年ダノンスコーピオンの2頭しかいない。前哨戦のニュージーランドTが中山1600メートル、ファルコンSは中京1400メートル、また桜花賞・アーリントンCは阪神、皐月賞は2000メートルと本番とは違う競馬場、距離で行われているため、直結しづらい傾向にある。

前走着順より内容をどう見るかだ。昨年のシャンパンカラーは逃げから差しに転じて穴をあけ、18年ケイアイノーテックは東京向きの末脚を生かしてNZT2着から巻き返した。今年は桜花賞2着アスコリピチェーノ、皐月賞3着ジャンタルマンタルが人気を集めそうだが、東京マイルを狙い撃ちしてきた伏兵馬にも注意を払いたい。

◆イフェイオン、東京向き脚質

桜花賞のイフェイオンは厳しい競馬を強いられた。内枠(2枠3番)ということもあり、周囲を囲まれエキサイト。走りのリズムをつかめずポジションも下げざるを得なかった。それでも勝ったステレンボッシュと0秒7差。1分32秒9で走っており、スムーズならもっと際どい勝負になっていただろう。あらためて能力の高さを示した。先行するとしぶとく、新馬のように控えれば切れる脚も使える。東京のマイルに脚質は合っている。

◆ディスペランツァ、瞬発力は通用

アーリントンCを制したディスペランツァは、1勝クラスを最後方から大外一気に差し切った時と違い、中団の内でレースを進めた。ペース自体は速くなかったが、馬混みでタイトな競馬をさせたことは本番につながる。しかも直線は前が詰まる不利があり、脚を使えたのは最後の250メートルくらい。完全に前が残る展開を上がり32秒4で突き抜けた瞬発力はG1でも通用する。ただ、マイルの速い流れは経験がなく、そのあたりが鍵になりそう。