バルセロナのシャビ監督(44)は4月25日、「今は残るのがベストだ」と今季限りで退任する発言を撤回し、来年6月30日まで残る契約を全うすることを発表した。この決定はサプライズのようにも感じたが、クラブの置かれた状況を考えると必然だったように思える。

バルセロナは堅守を武器にスペインリーグ優勝を飾った昨季と打って変わり、今季は攻撃的なサッカーを展開してシーズンをスタート。しかし、主力選手の負傷離脱や脆弱な守備が大きく影響し、スペインリーグで徐々に勝ち点を伸ばせなくなっていった。

会見でラポルタ会長と肩を組むシャビ監督(ロイター)
会見でラポルタ会長と肩を組むシャビ監督(ロイター)

■「6月30日をもって辞任」と発表

欧州チャンピオンズリーグ(CL)では、1次リーグ首位で決勝トーナメント進出を決めたものの、国王杯は準々決勝敗退。そして1月27日のスペインリーグ第22節ビリャレアル戦で3-5の大敗を喫したことが決定打に。首位に大きく引き離されたチーム状況に、シャビ監督は自分が辞めるのがベストだと判断。「今年6月30日をもって辞任する」と今季限りの退任を発表した。

この一件が起爆剤となってか、直後からチームは復調の兆しを見せ始める。欧州CLでは準々決勝((パリ・サンジェルマン戦)で敗退するまでの公式戦13試合で、10勝3分けという好成績を残した。

チームが好調なことで、スペインメディアからは来季続投の可能性についてたびたび質問が飛んだが、シャビ監督の答えはいつも同じだった。

「退任の意志は変わらない」

監督の決意は固いとみたクラブは、新たな指揮官探しに動く必要に迫られた。しかし、当然のことながら慢性的に続く財政難が大きく影響し、シャビ監督に代わる優れた人材を見つけるのには困難を極める。また、Bチームの監督を務めるラファ・マルケスの名前が浮上するも監督経験が浅く、クラブ内でリスクの高い賭けと見なされた。

クラブ内では”シャビ賛成派”と”反対派”に意見が分かれたものの、徐々に続投を求める声が大きくなっていく。シャビ監督自身も、ここ数カ月の好成績に自信を取り戻し、残留に気持ちが傾いていった。

■来季スペインスーパー杯の獲得必須

そんな中で迎えた4月21日、逆転勝利に向けて一縷の望みに賭け、スペインリーグ第32節のクラシコに臨むも2-3で敗北。首位Rマドリードに勝ち点11差をつけられ、今季無冠が決定的となった。

しかしその3日後、ラポルタ会長は自宅にクラブ首脳陣らを集め、シャビ監督と会談を実施した。その際、続投の条件として「新選手獲得に向けサラリーキャップに余裕がほとんどないこと」「フィジカルコーチに関していくつか変更が必要であること」「来季のスペイン・スーパーカップ出場権獲得が必須であること」の3つを提示し、シャビ監督はすべて受け入れたとのことだ。

そしてこの翌日、シャビ監督はラポルト会長とともに記者会見を開き、「1月には退任するのがベストだと話したが、今は残ることがベストな決断だと思っている」と続投することを正式発表した。

これによりとりあえず、クラブとしては来季に向けて不明瞭な状況はなくなった。シャビ監督は継続するに当たり、困窮している財政面を考慮し大きな補強はできないことにも理解を示した上で、4月28日のバレンシア戦前日の記者会見で、来季の陣容に関するヒントをいくつか出していた。

今年1月に加入したがうまくフィットしていない若きブラジル人FWビトール・ロケについては、「シーズン終了後に決定する。他リーグから来るのは簡単なことではなく、バルサで違いを見せるのも簡単ではない。彼にはもっと出場時間や自信が必要だ」と噂されている期限付き移籍の可能性を示唆した。

会見に臨むシャビ監督(ロイター)
会見に臨むシャビ監督(ロイター)

■注目されるヤマルとアラウホの動向

一方、経済的な問題で今夏売却の可能性が報じられているデ・ヨングについては「重要な選手であり、何も変わらない」と放出するつもりがないことを明言。チームの重鎮であるセルジ・ロベルトについて、「契約延長して欲しいし残留して欲しいが、彼次第だ」と状況を説明した。

しかし、パリ・サンジェルマン、バイエルン・ミュンヘンからそれぞれ巨額の移籍金でビックオファーがあったとの報道が出ているヤマルとアラウホについては、「クラブの状況によって計画を決める予定だ」と語るに留まった。もし売却した場合、ばく大な移籍金が入るものの、それと引き換えのクラブの財産を失うことになるため、今後大きな決断を迫られることになるかもしれない。

ラポルタ会長から条件を提示されたように、シャビ監督の今季残りの目標は、リーグ戦を2位以内でフィニッシュすることだ。そのためには勝ち点2差で3位につけるジローナを残り5節で振り切らなければならない。

また、バルセロナはさらなる収入を求め、最終節のセビリア戦後、すぐさまソウルに飛び、親善試合を実施する予定だ。そして欧州選手権、南米選手権、パリ五輪が開催される今夏について、シャビ監督は「選手が戻ってくるのは7月末か8月上旬と計算している。スペインリーグが始まるのは8月17日、18日の週末になるだろう。新シーズンに向けて準備する時間はあると思うが、この夏は激しいものになるはずだ」とプレシーズン中に多数の選手が不在になることを懸念していた。

■下部組織から15人トップデビュー

バルセロナは来季、シャビ政権下で4季目を迎える。獲得候補にバイエルン・ミュンヘンのドイツ代表MFキミッヒ、ベティスのアルゼンチン代表MFギド・ロドリゲス、マンチェスター・シティーのポルトガル代表MFベルナウド・シウバといった名前が挙がっているが、財政難が立ち塞がり、来季も思うように獲得することはできないシーズンを過ごすことになるだろう。

それでもシャビ監督には下部組織の選手をすでに15人トップチームデビューさせ、うまく使いこなしている手腕がある。その中で昨年まで合計で200万ユーロ(約3億4000万円)程度だったフェルミン・ロペス、ヤマル、クバルシ、エクトル・フォルト、マルク・グイウの5人の市場価値が、この1年で1億3000万ユーロ(約221億円)にまで上昇している。これはシャビ監督の功績と言えるだろう。そしてデビュー選手の数は今後、さらに増えると予想されている。

シャビ監督が来季、限られた予算の中で若手とベテランをどのように融合してチーム作りを進めていくのか、注目されそうだ。

【高橋智行通信員】(サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」/ニッカンスポーツコム)