昨年9月のベネチア映画祭(イタリア)審査員グランプリ(銀獅子賞)受賞から7カ月…。ようやく、日本の観客が、濱口竜介監督の新作を見ることができる日が訪れた。

水をくみ、まきを割って暮らす巧と花の父娘をはじめ、住民が野生動物と豊かな自然の恵みを分かち合うような生活を営む高原の町に、グランピング施設建設計画が浮上。その実態は、コロナ禍のあおりを受けた芸能事務所が、政府の補助金目当てで進めたずさんな計画で、水源を汚染しかねない位置に汚水処理施設が設置されることが判明し、説明会は紛糾する。濱口監督が22年に山梨、長野両県をリサーチして得た話に着想を得て物語を作り上げた。

出演するのはシナリオハンティングにドライバーとして参加した主演の大美賀均、同監督の21年「ドライブ・マイ・カー」でトラックを運転する車両部で今作で俳優に復帰した小坂竜士らで、著名な俳優ではないが、一見すれば、そんなことなどどうでも良くなる。美しい大自然の風景が映し出されるスクリーンから、人間が人間らしく生きることとは…そんな本質的な問いかけが投げかけられる106分間は豊かだ。

監督が面白いと思えること、作りたいもの、投げかけたいものを映画にするために「人柄が良い人をコンセプトに集めて、いい雰囲気で撮影」(濱口監督)した。こうした映画を1人でも多くの人が見れば、少しでも優しい世の中に…きっと、なるはずだ。【村上幸将】

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