2024年シーズン、球界全体で「投高打低」の傾向が顕著に出ている。それは個人成績に表れている。セ・リーグでは3割打者が2人だけ(5月8日現在) ヤクルトのサンタナの打率3割3分9厘が飛びぬけて、あとは中日・細川が3割6厘で続く。そこから2割台になり阪神・中野が2割8分3厘3毛で4位。これはパ・リーグも同様で、3割以上が3人だけ。ここまで極端なデータは珍しい。

チーム打率もそうだ。パのソフトバンクの2割5分9厘はずばぬけているが、それ以外は打てない打線を象徴するような数字が並ぶ。セ・リーグでは現状のBクラスの3球団が2割4分台で、上位3チームがそろって2割2分台。その分、投手陣が奮闘して、チーム打率の低さを補っている。

さて3割打者のいない阪神だが、8日の広島戦。負けたあと、監督の岡田彰布がつぶやいた一言が大きく取り上げられた。

「こんなんで勝つのは無理」

受け取り方によっては、投げやりな言葉に聞こえるが、そう言いつつ、岡田は打開策を巡らせている。勝つのは無理なら、采配で勝たせてみせる。それくらいのことを、頭に描くのが岡田の監督力。持ち上げすぎかもしれぬが、過去、何度もこの力で窮地を脱してきた。

「チームの状態がいい時って、勝手にゲームに勝っているわ。監督はベンチで腕組みして、ジッとしてたらエエ。それが逆の状況になった時、監督はどう対応するか。そこが大きいわけよ」。それでも岡田はなかなか動かない監督でここまできた。辛抱、我慢…。なかなか忍耐強いタイプ。でも今年、すでにこれまでにないことを行った。

1試合2点以下のゲームが続いた中、打線を大きくいじった。4番大山を5番にするなど、打順をガラガラポン。1試合限定と決めて、チームに大きな刺激を与えた。これをやったことで、打線の固定化というこだわりは消えた。

昨年と比較し、まともに機能しているのは1、2番だけ。3番から下は現状、期待感が薄い。どこからでも点を取れる打線だったはずが、1、2番が絡まなくては点にならない打線になっている。だから、ここからである。まずは2軍から井上を呼び寄せた。岡田は「旬」を大事にする。2軍で結果を出している井上は旬を迎えている。1、2軍の違いはあるけど、いきなり先発から井上を起用する。岡田はそうすると予想する。

3番で使ったノイジーに結果がでなかったこともあり、レフトで井上。十分考えられる起用法であり、10日のDeNA戦、先発は左腕の東。タイミングとしては整っている。

先にも書いたが、1度、打線を大幅に組み替えたことで、制約は取っ払われたとみる。あれがあったおかげで、驚きはもうなくなる。「こんなんで勝つのは無理」のつぶやきの裏で、これで勝ってやる…のプランが巡る。また訪れた貧打第2波。ここはベンチ力の見せどころになる。【内匠宏幸】(敬称略)