「ホームランを打てる打者は全部の打席でホームランを狙っていけばいい」。日刊スポーツ評論家・真弓明信が阪神監督だった時代に聞いた話だ。一瞬、ええ? と思ったのだが、もちろん、理論はある。

「本塁打にしようと思ったらストライクゾーンの球をとらえないとダメ。ボール球を打って本塁打になることは、普通はない。だから本塁打になるコースの球を見極めて打って、それが角度がつかなければヒットになる。それでいい」

当時の主砲は現在の広島監督・新井貴浩だった。その新井は外角にきたボール気味のスライダーにいきなり手を出して内野ゴロに倒れたりする場面もよく見ていたので、思わず言った。

新井選手にそれを教えないとあかんの違いますか? 真弓は苦笑しながら言った。「そりゃあ言ってるよ。でもなあ…」。まあ、それももっともだ。誰でも打ちたいと思って打席に入るし、狙い球を絞ることもある。「言うはやすし、行うは難し」…ということか。

佐藤輝明の話だ。少しずつ上向き加減に見えてきた阪神打線の中で、なかなかエンジンがかからない。期待しすぎでは…と言う声もあるかもしれないが、やはり計り知れない潜在能力を持っているだけに、どうしても注目してしまう。

その佐藤輝に関して、指揮官・岡田彰布は先日、こんな話をしていた。「ゲームでも打つことですよ。簡単ですよ。ボールを振らないでストライクを打ってくれたらいいと思いますけどね」-。4月28日のヤクルト戦(甲子園)に逆転勝ちした後、佐藤輝をスタメンから外したことを聞かれての談話だ。

ある意味で、これは「真弓理論」にも通じているかもしれない。ストライクを思い切り、たたく。そんなシーンをファンは待ち焦がれている。そう思いつつ試合を見ていると、スタメン復帰してからの佐藤輝は懸命にボールを見極めようとしているように見える。この試合も2回にはきわどい球を見逃して四球を選んだし、ボールと思って見送った球をストライクと判定されて、残念そうにする場面もあった。

もっとも見極めにばかり集中すると持ち味である思い切りが消えてしまう面もあり、そこが難しいのだが。今季4度目のドローは阪神に有利、セ界貯金独り占めだがジリジリした試合が多いのも事実。こんなときこそ佐藤輝の1発が見たい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)