16年ぶりの東京ダービーに魅了された。
東京ヴェルディがJ1に戻ってきたことで復活したFC東京とのカード。4月13日、快晴の味の素スタジアムには3万1746人の観衆を集めた。
試合前の両チームサポーターが火花を散らす。大合唱がスタジアムに響き、そして鮮やかな「コレオグラフィー」がスタンドを彩った。
美しい-。このひと言に尽きる。
■染野ボレーに遠藤の2ゴール
16年前のダービーではFC東京を率いた城福監督、その言葉が頭に浮かんだ。
「あれだけの熱量で、いわゆる劇場というか、シアターというか。ファン以外の方にも、サッカーにこんな熱量のこういう試合、空間があるんだという発信できる可能性があると思っています」
会場の雰囲気に後押しされるように、試合も白熱したものとなった。前半にヴェルディが2点を先制する。中でも宮原のボールカットから、クロスを右足で決めた染野の一撃。あんな美しいボレーはあまり見たことがない。欧州でたまに見るようなワールドクラスのスーパープレーだった。
対するFC東京も負けていない。前半終了間際にイエロー2枚で退場者を出して10人となりながら、後半に怒濤(どとう)の反撃に出た。球足の速いパスを鮮やかにインターセプトした白井の鋭さからの得点。そして途中出場ながら2ゴールした遠藤の出色の決定力には思わず声が出た。どれを見ても素晴らしいプレーの連続だった。
そしてはたと気づいた。プレーしているのは選手だが、本当の主役はサポーターなのだと。この東京ダービーという舞台装置が、選手の力を最大化していた。
■大脳の興奮高まる「応援効果」
運動生理学上、選手たちは応援されることで大脳の興奮が高まり、脳から筋肉に命令する神経伝達が促進される。動きが良くなる。「応援効果」だ。
ちなみに応援する側も、声を出すことで血液中にアドレナリンが放出され、血行や代謝が良くなりストレスが発散される。スタジアムには幸せホルモンが充満している。
ふと、青森山田高を率いて東京・国立の舞台で多く戦った、FC町田ゼルビアの黒田監督の言葉を思い出した。
「国立でプレーするとみんなうまく見える」
「選手権決勝の満員の国立」は、選手のパフォーマンスを高める最高の舞台だったという。逆に違う公式戦で国立で試合をした経験もあるが、その時は「これは我々の言う“国立”でない、“国立競技場”で試合をしているに過ぎない」とすぐに悟った。
そこに舞台装置があるか、ないか。それによって選手のパフォーマンスは大きく変わってくる。
■会見で両監督が口にしたサポーター
サポーターが主役-。東京ダービー後の会見で、両監督の言葉からも実感した。
2-2の引き分けだったが、終了間際に追いついたアウェーFC東京のクラモフスキー監督は勝者のような晴れやかな表情だった。
「選手たちはピッチの上ですべてを出し切ってくれた。サポーターが素晴らしい応援をしてくれたおかげ。日本で最高のサポーターです」
入れ替わって入ってきた東京Vの城福監督は、敗者のように打ちひしがれていた。会見冒頭、しばしの沈黙を経てこう口を開いた。
「サポーターには悔しい思いをさせました。申し訳ない。以上です」
どちらも「サポーター」というフレーズがいの一番に出てきた。試合展開、勝敗を左右する力がある。それが東京ダービーの実態だ。
両クラブを熟知する城福監督の言葉を借りるなら、「東京ダービーというのは歴史的にみて、成り立ちというか、プロセスを見ても対局にあるというのか、お互いがお互いをものすごく意識している中でクラブをつくってきた」。
しかもホームスタジアムは同じ味スタ。イタリアで言えば、ACミランとインテルミラノのような関係だ。だからこそ生まれる強烈な対抗心。ただ試合が終わり会場を出たら、そこはノーサイドとなる。“敵対”はあくまでサッカー観戦の中での話だ。
■呉越同舟でキラーコンテンツに
16年前の東京ダービーにも出場し、今回もプレーした長友が話した。
「J1のどんな試合よりも興奮したし、すごくアドレナリンが出ました」
そして名門インテル・ミラノに在籍していた男はこう続けた。
「ヴェルディが上がってきて、またダービーができるのはうれしい。格別な思いが自分の中で出てきた。もっと盛り上げたい。ミラノダービーもそうですけど、トルコのガラタサライやフランスでも、街が1週間前から雰囲気が変わるというのを経験してきた。今週、東京ダービーがあるんだと雰囲気が上がるようにしたい。認知度も含めてそういうのに持っていきたい」
まさしく呉越同舟。異なる者同士が手を取り、Jリーグを盛り上げるキラーコンテンツにしていく。
クラモフスキー監督は、10人で2点差を追い付いた試合についてこう表現した。
「ダービーは何が起こってもおかしくない。驚きがあって不思議でない」
16年ぶりに復活した非日常な「祭り」。サッカーの神様に感謝したい。【佐藤隆志】