【イチロー大相撲〈22〉】琴桜? 琴櫻? 正しい表記はどちらなのかを検証

日本相撲協会は4月30日に夏場所の新番付を発表した。

大関琴ノ若は琴櫻に改名した。祖父の横綱琴櫻のしこ名を継承したかたちだが、日刊スポーツも含めて新聞では主に「琴桜」と表記される。

これはなぜなのか? 本人はどう思っているのか? 突っ込んで調べてみた。

大相撲

媒体によって異なる表記

ネットでいろんな記事を読んでいると「琴桜」と「琴櫻」が混在して、どっちが正解だろうと疑問に思ったことはないだろうか?

番付表は当然「琴櫻」、相撲の専門雑誌も「琴櫻」、ところが新聞系メディアは「琴桜」と表記する社が多い。日刊スポーツも紙面では「琴桜」としている。先代佐渡ケ嶽親方の元横綱琴櫻も、新聞では「琴桜」だった。

春巡業中のある日、琴櫻に改名する直前の琴ノ若に聞いた。

「この問題、どう思ってますか?」

大関の答えは、次の通りだった。

「本当は難しい方の字なので、できればそっちを使っていただきたいです。でもサインを書くときは、先代もそうですが、簡単な方の字を使うんですよ(笑い)。

『どっちの字なんですか?』とは、よく聞かれます。覚えてもらうには、琴櫻の方で覚えてもらいたいです。昔は、字画を考えて『櫻』にしたみたいです。琴ノ若の『若』も、本当は草カンムリが離れているんです。でも、先代も琴櫻の字画がめちゃくちゃいいわけではないとも聞きました。いいように持っていけばいいんです」

本人は「琴桜」よりも「琴櫻」の表記を希望していた。

新しいサインを披露した琴櫻

新しいサインを披露した琴櫻

高安も本当は「髙安」なのだが、「高安」と表記されることが多い。

これについても、本人に聞くと「やっぱりたくさんの方に見てもらうなら、正しい名前の漢字で覚えてもらいたいですね。自分は小学生のころから、テストで名前を書くときなどは、はしごだかの髙を書いていました」と答えてくれた。

湘南乃海も、番付表では「湘南乃海」。海のつくりの下が、母で表記されている。果たして本人はどう思っているのか。

こちらも聞いてみたところ「(違っていると)嫌っすけど、点々は難しいのでしゃあないです」とさっぱりした答え。点々になったのは、字画の問題らしいとのことだった。

校閲歴50年の生き字引

そもそもなぜ、新聞では「琴櫻」でなく「琴桜」なのか。

日刊スポーツのOBで、校閲を50年以上も担当してきた生き字引、かつ好角家の藤野哲男さん(76)に聞いた。

「広く、多くの人に分かりやすい、平易な文章で簡単な字を使う。これが新聞の大原則で、日刊スポーツも新聞協会に加盟しています。

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スポーツ

佐々木一郎Ichiro Sasaki

Chiba

1996年入社。2023年11月から、日刊スポーツ・プレミアムの3代目編集長。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。 X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで、大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。