僕の息子は中学2年生の時に1年間ガッツリ不登校だった。彼によると1年生の終わりごろから2年生になったら学校に行かないと決めていたと…。すごい決意と信念だが、理由の全ては聞けていない。
もっと正確に言うと「聞いていない」が正しいかも知れない。うちの家族はステップファミリーということもあり、結婚した昨年から急激に環境が変わった。それはもちろん僕もそうだが、それ以上に、東京からはるか離れた北海道で生活していた妻や子どもたちにとっては、かなりの冒険だったに違いない。
ようやく1年が経ち、本当の意味で慣れ始めた時期に、改めて思うことを書いてみたい。先に述べたように息子は中学2年生の時に1年間しっかりと不登校を経験している。その当時を振り返ると、本人も妻も相当なエネルギーを使っていた。学校の先生も何度も家に足を運んでくれたようだ。それでも息子は一切登校することはなかった。
僕は心のどこかで、この意思の強さに「すごいな」とずっと感心していた。とは言え、当事者にとってはそんなことは言ってられない。本当に死活問題である。
そんな中、僕らは結婚した2023年3月21日に籍を入れて、4月1日から家族4人での新生活が始まった。迎えた入学式では、新しい学生服を着た息子の姿があった。少しはにかみながら登校していった彼の顔は今でも鮮明に覚えている。
あの時の表情は一体どんな気持ちから出たものなのか、彼と向き合う中で少しずつ見えてくる息子の心の内側。「不登校は社会へのメッセージ」。僕はそう思った。
もちろん、すぐにそれがわかったわけではない。たくさんの葛藤を繰り返し、衝突を繰り返して、今、彼は高校生活を送っている。しかも何と学級委員長まで務めているというではないか(笑い)。誰かから強制的にやらされたと思ったら、自ら立候補して、なおかつ、対抗馬である女子生徒とのジャンケン決戦に勝ったようだ。一体、彼の中で何が起きたのだろうか。
話を少し戻すと、息子が中学3年生になり学校に行き始めて数週間のころ、突然再び学校へ行かなくなった。理由はここでは省略するが、理解はできても納得できないこともあった。僕もどこかで学校へ行くことが正義で、行かないことが悪だという感覚があったのかもしれない。学校へ行こうとしない彼にストレスを抱える日々もあった。しかし、毎日向き合い続けていると、学校へ行かないという決断は何かしらの表現に思えてきた。
彼以外にも世の中には数多くの不登校生徒がいる。あるデータによると、2022年度の小中学校における不登校者数は過去最多の29万9048人になっていたようだ。その生徒自体の苦しさもものすごくわかるが、それ以上に不登校の子どもを持つご両親の気持ちはもっとわかる。
毎日毎日、朝起きる度に期待と不安が入り交じる。子どもが起きてくるかどうか、トイレの音、シャワーの音、歯磨きの音、少しでも子どもが部屋から出る音を敏感に感じ取ろうとする。気がつけば空耳も聞こえてくる。親の精神状態も子どもに負けず劣らず、疲弊していく。
そんな中、僕はというと、ステップファミリーということもあり、少しその状況を客観的に見ることができていた。息子が学校に行かない理由が、本当に心労からくるものなのか、それとも怠け癖がついて甘えているだけなのか。それを見抜いたときは、間髪入れずに思いっきり怒鳴った。
あまりの勢いに息子はクローゼットに避難をし、リビングで朝食をとっていた娘の手は止まった。嫌われる可能性はあったが、彼の将来と今の関係構築をてんびんにかけたら、未来を見て今嫌われる可能性を選んだ。
ある意味無責任なのかもしれないが、親にとって子どもは社会の宝であり、自分の操りロボットではない。自分が嫌われることを怖がり何もできないでいると、子どもの今も未来も台無しにしてしまう可能性がある。
僕は今まで不登校の生徒やヤンチャをして補導された生徒、発達障害を抱えた生徒などさまざまな境遇の子どもたちを見てきた。その度に1人ひとりと向き合い、衝突を繰り返し、自分に言い聞かせてきた。感情よりも事実を優先し、事実よりも未来の子どもたちを想像する。その時に必要なこと全力で伝え切る。どれだけ嫌われても向き合うべきは未来。これだけは絶対に譲ってはいけないし、ブレてもいけない。
大人は子どもの未来の道標であり、今の常識や大人の成功体験を押し付けてはいけない。この絶妙なバランスこそ向き合う時に必要なことだと思っている。
僕は当時、何度も失敗を重ねた。発達障害を抱える生徒とそのご両親。信頼関係はあったが、少しのズレが大きな歪みを生んでしまう。今ならもっとできることがあったかもしれないが、その当時の僕には精いっぱいの対応だった。
彼ら彼女らには主張がある。なぜ学校に行かないのか。なぜ学校に行きたくないのか。なぜ部屋に閉じこもるのか。それは物を壊したり、ヤンチャをする子どもと一緒のエネルギーなんだ。表現方法は違えど、同じエネルギー。だから見過ごしてはいけない。
ヤンチャや万引き、喫煙、飲酒、暴力はわかりやすい。時には警察も介入する。しかし、ひきこもりなどの不登校は対応が難しい。時間と忍耐、そして未来への希望をが必要だ。その中で子どもたちが発している不満をちゃんと感じ取れるかどうか。社会人になってもちゃんと声を大にして不満を言える人は少ない。それが子どもならなおさらだ。閉じこもることや行かないことででしか表現ができない未熟な部分がたくさんある。
僕は弱い立場の子どもたちを守ってあげたい。不登校は社会へのメッセージだ。親や先生、大人への対抗心。納得できないことや権力で理不尽にねじ伏せられてしまうこともあるだろう。必死に社会に出るために戦おうとしている彼らを、大人がしっかり守らなければ、同じ未来がずっと繰り返されてしまう。
やってやろうぜ。難しくデリケートな問題だからこそ、僕は先頭を走ろうと思う。
◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。22年2月16日にRISEでプロデビュー。プロ通算2勝1分け2敗。身長175センチ。
(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「元年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)