少し前になるが、昨年おおみそかのRIZIN45で行われたバンタム級王座戦に向けた調印式(12月24日)でのこと。挑戦者(当時)の朝倉海(30)が、王者フアン・アーチュレッタに対して英語でトラッシュトークを仕掛けた。「減量は大丈夫かな? アーチュレッタ。顔が疲れてるみたいだけど」「お前はリングで寝ることになる」などと挑発した。
朝倉に英語で舌戦を行った理由について尋ねると「もし僕が海外に行くとして、トラッシュトークをするなら英語でやる必要があると思う。そのための練習というか、必要だと思うので」と明かした。朝倉は総合格闘技(MMA)の世界最高峰UFCへの挑戦を切望しており、米国で戦うために英語を学んでいるのだ。
つい先ごろ、野球の米大リーグ・ドジャースに所属する大谷翔平選手の通訳、水原一平氏が違法ギャンブルで億単位の借金をつくったことが衝撃的なニュースとして日米を駆け巡った。その際「そもそも日本人大リーガーに通訳は必要なのか?」という議論も一部で起きた。
大谷選手の英語力については取材をしたことがないので何とも言えないが、言葉がまったく分からないのに大リーグに挑戦しようとする日本人野球選手は結構多い。「米国に住みたかった」という長谷川滋利氏や、ヤクルト時代から外国人と懇意にしていた岩村明憲氏らを除いて、筆者が野球担当だった02年からの十数年間で「僕は大リーグでプレーしたいので、英語を学んでいます」という選手に会った記憶はない。
野球の後に担当したサッカーでは、海外志向のある多くの選手が英語を学んでいた。吉田麻也や川島永嗣は通訳なしで堂々と現地メディアの取材に答えるし、そもそもチーム戦術が重要視されるサッカーでは、ミーティングで監督の言葉が分からなければお話にならない。
誤解を恐れずに言うと、言葉も勉強せずに海外リーグへ挑戦するのは選手の甘えだし、今後は海外へ挑戦する日本人アスリートには最初から通訳なしで頑張ってほしいと思う。もちろん生活の基盤を築く上で、スタジアム外で英語が堪能なスタッフがいるのは心強い。だが、ひとたび競技場に入れば、通訳を介さずに自分の言葉やプレーで自己主張できなければ競争には勝てない。
どの競技でも、勝てば勝つほど戦いの舞台は世界になっていく。おのずと英語(やその他の外国語)を話す機会も増える。米フロリダ州マイアミ出身のK-1ワールドGPミドル級王者・松倉信太郎の英語が流ちょうなのは驚かないが、流ちょうでなくても自分の言葉で、自信を持って話す選手は格好良いし、ファンにも受け入れられる。
アジア最大の格闘技団体「ONEチャンピオンシップ」で5連勝と活躍中の手塚裕之(34)はネーティブのようにぺらぺらと英語をしゃべるわけではない。だが自分の気持ちをストレートに言葉にのせて熱意をもって話すから、会場のファンからも大歓声が起きる。手塚は6日の「ONEファイトナイト21」(タイ・ルンピニースタジアム)でダ・シルバ(ブラジル)に勝利した後、英語でチャトリCEOに王座戦を戦わせてほしいと訴えた。異国で、自分の力で未来を切り開こうとしている選手は本当にリスペクトに値すると思う。
【千葉修宏】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)