下からじんわり伝わる母の愛。力をもらって美ノ海は勝負土俵に上がる。
力士は取組前、土俵下に控える。その際、しこ名が入った専用の座布団を使えるのは幕内力士の特権。美ノ海は昨年九州場所で新入幕、今場所が幕内3場所目。座布団の「美ノ海」は、母の睦子さんが書いた。
昨年秋場所、東十両5枚目で10勝をあげて新入幕が濃厚となり、関取が自ら母に頼んだという。睦子さんは3歳から書道を始め、人に教えるほどの腕前。何枚も紙に書いて、最高の1枚を完成させた。「私にできる精いっぱいの応援の気持ちをこめました。大好きな書道がこんな形で役にたってうれしい」と話す。
美ノ海も「毎日、目につくものなので、力をもらっています。自分から頼んで何枚も書いてくれた。本当にありがたい」。16年春場所の初土俵から、休場は21年初場所の終盤2日間だけ。丈夫な体に生み、育ててくれた母への感謝を形として示したかった。
「1度きりの人生。思い切り頑張って世の中に恩返しできますように」が母の願い。西前頭13枚目の美ノ海はこの日、妙義龍を送り出して4勝4敗とした。176センチ、143キロと幕内では小柄。母の愛が連日の奮闘を支える。【実藤健一】