<佐井注目>

少し驚いた。

阪神シェルドン・ノイジーが一瞬だけ感情をむき出しにしたシーンに、だ。

4月24日の敵地DeNA戦。来日2年目の助っ人は同点で迎えた9回無死満塁から押し出し四球を選ぶと、打席から虎ベンチに向かって雄たけびを上げた。普段はめったに喜びをあらわにしない男の珍しい感情表現にナインも沸く。そんな光景を目に焼きつけながら、ふと舞台裏のエピソードを思い返した。

ノイジーは来日1年目の昨季、グラウンド上では白い歯をこぼさない印象が強かった。安打を放った直後、盛り上がるベンチをよそに一塁ベース上で首をかしげるシーンもあった。自分に厳しい男の肩の荷をなんとか少しでも下ろせないか-。そう考えた坂本誠志郎は昨秋、食事の席で思いをぶつけたのだという。

「ノイジーはどちらかといえば完璧主義なんだと思います。常に自分が思う1番いい形で打ちたい。だからヒットを打っても自分に腹が立ったり『納得いっていない感』が出たりするのでしょう。でも『ええやん、ヒットになってるんやし』ともう少し楽観的になってもいいんじゃないか、と伝えたかったんです」

1歳上の先輩捕手は18年ぶりのセ・リーグ優勝を成し遂げた後の9月末、横浜遠征中の「野手会」でノイジーに熱く訴えかけた。

「うれしい時はもっと感情を出してもいいんじゃないかな。それでチームにいい影響が出るのであれば、どんどん出していったらいいんじゃないかな」

「分かった。できるだけそんな風にやってみるよ」

助っ人は仲間の言葉を真剣に受け止め、静かにうなずいたそうだ。

本人に聞けば、ノイジーは2人の子供を持つ父親、一野球人としての信念を胸に日々プレーしている。

「感情のコントロールは意識しています。特に悔しさだったりネガティブな気持ちを感情に任せて態度に出してしまうのは良くない。自分の一挙一動を見て子供が学ぶところもありますからね。一方で、うれしい感情はチームメートに見せても、相手投手には見せないようにもしています。自分が三振を奪われた時、投手が感情を見せてきたら失礼だと感じますからね」

自身の美学と仲間の思いを重ね合わせた末に、あくまで阪神ベンチに向けた一瞬だけの感情表現にたどり着いたのかもしれない。

坂本は数日後、ノイジーの雄たけびをうれしそうに振り返っていた。

「あれは僕も『おっ、珍しいな』とビックリしました。もともと『チームのために』という思いを持ってくれている選手ではありますけど、この時期からああいう感情が出るのはいいことだなと思います。あの姿を見て、選手も感じるものがあるでしょうからね」

虎ベンチの雰囲気は今季も良さそうだ。【野球デスク=佐井陽介】

24日、DeNA対阪神 9回表阪神無死満塁、押し出し四球を選んだノイジーは、気迫の表情を見せる
24日、DeNA対阪神 9回表阪神無死満塁、押し出し四球を選んだノイジーは、気迫の表情を見せる
24日、DeNA対阪神 9回表阪神無死満塁、ノイジーは押し出し四球を選ぶ
24日、DeNA対阪神 9回表阪神無死満塁、ノイジーは押し出し四球を選ぶ