西武が、指導者の育成改革の手段として、株式会社「チームボックス」のコーチングの手法を用いた長期伴走型トレーニングプログラムを本格的に導入し、5年目に入った。同プログラムに参加する指導者のトレーナーを務める藤森啓介氏、守屋麻樹氏に西武首脳陣のコーチングの変化などを聞いた。【取材・構成=久保賢吾】

「チームボックス」のコーチングの手法を用いた長期伴走型トレーニングプログラムのトレーナーを務める藤森氏(左)と守屋氏(撮影・久保賢吾)
「チームボックス」のコーチングの手法を用いた長期伴走型トレーニングプログラムのトレーナーを務める藤森氏(左)と守屋氏(撮影・久保賢吾)

西武ではファームを対象に実施し、松井監督らも2軍監督時代に参加するなど、首脳陣、スタッフの中にコーチングスキルに必要な基本要素として、7つの要素(目標設定力、評価力、質問力、傾聴・承認力、振り返り力、オープニング、クロージング)が現場で共有される。

藤森氏 多くのコーチが受講されているので、共通言語と言いますか、7つの要素を皆さんが意識された中で、お互いにコーチングの話ができるというのはとてもいいところですし、変わってきている1つかなと思います。

守屋氏 印象的だったのが、コーチはコーチの仕事をしてるだけであって、選手と対等だと言うんです。例えば、ミスした時にその練習をさせられなかった俺が悪いと。でも、次こういうことにならないように練習しようという発言があったりして、選手からするとモチベーションが上がりますし、空気感も相当変わってきてると思います。

藤森氏 ミーティングなどでコーチが選手に話してるところを見てる中での変化で言うと、できていないことを指摘するよりも、ちゃんとポジティブなことに視点を向けて、さらに良くしていこうというふうな形でコミュニケーションを取られていて、チームの雰囲気も良くなっていますし、結果にも表れてきています。

育成プログラムへの球団全体での理解も深く、集合研修には飯田本部長や広池副本部長ら球団幹部もオブザーバーとして頻繁に参加する(チームボックスのプログラムでは、一緒にプログラムを作り上げる球団側の上司や事務局メンバーを「ファミリー」と呼び、参加者の成長やモチベーションをさらに促していく)。

藤森氏 ファミリーの皆さんが参加者と一緒にペンを動かして学ばれていて、球団全体で盛り上げていこうとする姿勢が、本当に素晴らしいところだと思います。やっぱりそういう姿勢を見ると、参加者の方も自分もしっかり学ばないといけないと思いますし、みんなで学ぶというところで、学ぶ組織文化が構築されつつあります。

現在、プロ野球界で「チームボックス」の育成プログラムを取り入れるのは西武のみの1球団。守屋氏によれば「最初はコーチミーティングに入ることに微妙な雰囲気はあったと思います」と回想したが、情報管理などさまざまなハードルを乗り越えながら、アップデートする。

藤森氏 最初はコロナもあったので、1on1がオンラインでしかできなかったり、直接お会いしないと本来の声や考えを聞きづらい面があったんですけど、それだと本当の意味で指導者に対して寄り添っていけないということで、現場観察の回数を増やしたりして、お互いに信頼を作れたんじゃないかなと思います。

西武が目指すのは、常勝軍団の再建とともに、日本一の人材育成集団の構築。野球界、スポーツ界の発展に向け、進化し続ける。(この項おわり)

◆藤森啓介(ふじもり・けいすけ)早大大学院スポーツ科学研究科を卒業。早大ラグビー部のコーチを2年間、10年からは早稲田摂陵高ラグビー部の顧問を務め、監督就任1年目に府大会で準優勝した。現在は東京都立大ラグビー部のヘッドコーチ、九州大ラグビー部のディレクター・オブ・ラグビーなど複数のチームを指導する。

◆守屋麻樹(もりや・まき)早大政治経済学部政治学科を卒業。04年から早大アーチェリー部ヘッドコーチ、10年からは同大では女性初の監督に就任した。人数不足で廃部寸前のチームを立て直し、全国大会準優勝へと導いた。現在は全日本アーチェリー連盟の執行役員、日本ボクシング連盟理事、東京都アイスホッケー連盟理事も務める。