中日との初戦(4月19日)、試合前の練習を終えたあと、ヘッドコーチの平田勝男が近づいてきた。「いやー、よく粘ったかいがありました。監督が言っていた通り、チームがガラリと変わりましたからね」。長く続いた底の状態を抜けた。ポイントになったのは? こちらの問いに平田は即座に返してきた。「あのゲームです。よく引き分けたから。負けていたら、どうなっていたか。巨人と引き分けたゲーム。あそこからやもんね」。

4月16日の巨人戦。それはレギュラーではないエキスパートな選手が、とびきり光った試合だった。走塁のエキスパートの植田が示した「神走塁」。それを生かした代打糸原の犠牲フライ。引き分けに持ち込んだ控え組の働きはベンチに勇気と希望を与えたものだった。

監督の岡田彰布はベンチ組をすごく大事にする。糸原、原口のベテランはもちろん、代走、守備要員の植田、熊谷を高く評価し、かわいくて仕方ないといった風情で接している。

実は開幕前、岡田との会話の中で興味ある話があった。それは植田と熊谷にまつわるもので「アイツら、バッティングもよくなっているんよ。だから代打要員として下(2軍)から誰かを上げるということはないわ。アイツらで十分、代打でいけるんやから」とニコニコしながら明かしていた。

試合前の練習。まだスタンドにファンが入れない時間帯。岡田の姿は二塁ベースの後ろにある。ノックバットを持ち、2カ所のフリー打撃を見つめ、一塁側のバント練習にも視線を注ぐ。内野のノックを確認したら、真後ろの投手陣のアップもチェック。岡田が常に意識する「見る」こと。これがルーティンとなっている。

それがあるから植田、熊谷の打撃の成長ぶりもわかっていた。だから今回、得点力が乏しい状態が続いても2軍からのテコ入れは考えなかった。ここまで点が入らなければ、2軍から状態のいい野手を上げたくなるもの。しかし岡田は動かなかった。それは見ることで得ている選手たちの上昇気配。走塁や守備だけではなく、着実にバッティングでもレベルを上げている植田、熊谷を例に出し、いまのメンバーで十分に戦えると、監督自身が結論を出していた。

レギュラーには時に厳しく、辛辣(しんらつ)な言葉を発するが、控え組に対してはそんなコメントはほとんどない。それはその道の「プロ」と認めているからだ。「レギュラーだけで勝てれば、楽なもんよ。でも、そう簡単なもんやない。貴重な控えがいてこそのチームなわけ。そこが強ければ、チームは勝てる」。

勝負どころでの代打、代走。逃げ切りへの守備固め。これらの起用法が岡田采配のキモになる。もちろん投手陣の継投もその中に含まれる。駒使いでは絶対的な自信を持つ。岡田ならではの戦術は、彼ら控え組がいてこそ。「あの植田の走塁からです」と平田が挙げたターニングポイント。植田、熊谷に代表されるように、岡田はいつも彼らを気にかけている。【内匠宏幸】(敬称略)

24年4月12日、中日対阪神 12回表阪神1死、熊谷敬宥は左前打を放つ
24年4月12日、中日対阪神 12回表阪神1死、熊谷敬宥は左前打を放つ
24年4月20日、阪神対中日 8回を終え、選手交代を告げる阪神岡田彰布監督
24年4月20日、阪神対中日 8回を終え、選手交代を告げる阪神岡田彰布監督