長い間、野球を見ているつもりだが、こんなのは記憶にない。近本光司は回った4打席すべてで「1番打者」だった。1回は当たり前として3、5、7、そして8回と5度すべて先頭打者になった。

逆に言えば、完投勝利を収めた9番・村上頌樹でことごとく攻撃終了だったのである。それがどうした…と思うかもしれないがこれは相手の嫌がる“しつこさ”を象徴していると思う。少し箇条書きにしてみた。

<1>四球が得点に 1点を追う2回、1死からノイジーが四球を選んだのをきっかけに坂本誠志郎の適時打で同点に。4回は大山悠輔の四球から勝ち越し成功。大山はその後、選んだ2つの四球でも生還した。

<2>テルのチーム打撃 スタメン復帰した佐藤輝明に期待される長打はなかったが、しつこく打った。2回1死一塁では一ゴロで打者を進める。4回は死球。6回無死一、二塁では二ゴロで一、三塁に。7回の1死満塁では好守に阻まれたが一ゴロで打点を上げた。結果としての「チーム打撃」かもしれないが、三振ではなく懸命に転がし、走り、併殺を防いだ。しぶとさを見せたことが9回の左前打につながったのかもしれない。

<3>坂本のバラエティー打点 7番・坂本は適時打2本、内野ゴロ、そして犠飛で3打点を稼いだ。試合前まで打点「0」だった男がしぶとい打撃で同点、勝ち越しに大きく貢献した。

<4>村上の粘り しつこさは粘りだ。1回、秋山翔吾に先頭打者弾を浴び、なおも安打と味方失策で無死一、二塁。並みの投手ならガタガタいくところだが、そこは昨季のMVP右腕。粘り腰を発揮し、この危機を1失点で抑えたことがすべての基礎となった。

<5>木浪もしつこい 付け加えれば、これだ。こちらもスタメン復帰となった木浪聖也は敬遠2つを含む3四球に1安打、1打点。3試合ぶりに復帰した試合で、やはりレギュラーの雰囲気を感じさせた。

<6>3試合連続10試合目の逆転勝利 先制されても投手が粘り、打線がコツコツ返していく。華やかさとは無縁だが、これが今の阪神の持ち味だろう。

「劇的な逆転勝ちじゃないからな。1点、1点の積み重ねの逆転やからな。その方が相手にはダメージ大きいかも分からんけどな」。指揮官・岡田彰布もそう振り返った。2位巨人、3位中日は敗戦。首位固めに成功して5月突入だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

広島対阪神 9回表阪神無死一塁、佐藤輝は左前打を放つ(撮影・上田博志)
広島対阪神 9回表阪神無死一塁、佐藤輝は左前打を放つ(撮影・上田博志)