「つくづく『縁』だと思うんです」
半世紀を超す自身の歌手人生を振り返って、そう表現したのは、平山みき。
1972年(昭47)に発表した「真夏の出来事」が大ヒット。その特徴ある声とおしゃれなムードが一世風靡(ふうび)した。
同曲は、筒美京平作曲、橋本淳作詞。何十年もヒットソングを生み続けたゴールデンコンビだ。
とくに筒美作品は幅広く、いしだあゆみ「ブルーライトヨコハマ」、野口五郎「青いリンゴ」、尾崎紀世彦「また逢う日まで」、太田裕美「木綿のハンカチーフ」、ジュディ・オング「魅せられて」、さらにはアニメ「サザエさん」のオープニング曲などなど数え切れない。
その筒美さんは20年に80歳で亡くなったが、未発表の曲を残していた。
「橋本淳先生が『せっかくの遺作。もったいないから出そうよ』と声をかけてくださいました。何度も詞を書き直していただいたうえで『少し趣向を変えて、デュエットなんかおもしろいかも』となって」
こんな流れで、元ピチカート・ファイヴの野宮真貴とのレコーディングが実現。「アーティスト/ホットな地球」CDリリースとなった。
平山の甘くて太い声、野宮の繊細で細い声。そしてモダンな中にも、どこか懐かしさを残す筒美サウンドが絶妙なアンサンブルをつくりあげた。
平山が筒美・橋本コンビと出会ったのは、20歳のころだった。
「小学校に上がる前、私が歌うのを聞いた母親が『上手だね。歌手になれるわよ』と言ってくれたんです。幼い私は『よし、将来は歌手だ』と誓いました。東京・銀座のライブハウスで歌っていたのを橋本先生が見てくださって、筒美先生に『いい子がいる』と紹介してくれたんです。筒美先生は私より10歳ほど年上でしたが、オトナの雰囲気をお持ちで『怖い先生』という印象でした」
当時から特徴ある声と歌い方をしていた平山に「筒美先生も、橋本先生も『変えなさい』とは言わなかった。私の自由にさせてくれたんです」。
70年、平山は「ビューティフル・ヨコハマ」でデビュー。第2弾の「真夏の出来事」が大ヒットした。歌謡曲全盛の時代。
「最近は、若い世代の人から『一緒にやりませんか』と誘われることが増えました。お仕事のリクエストは断らない主義で、昭和の楽しさ、魅力を伝えることが私の務めだと思っています」
桑田佳祐がYouTubeで「真夏の出来事」を歌い、エレファントカシマシ宮本浩次が「愛の戯れ」(75年)をライブで歌った。いずれも筒美京平作曲、橋本淳作詞。そしてオリジナルは平山みき。サリー久保田グループと組んだ「僕は待ち人」も話題を呼んだ。
「作品が歌い継がれるのはうれしいし、幸せ。でも、なんでそうなるのか、理由はわからないんです。この声と歌い方をプレゼントしてくれた神様に感謝するばかりですね」
【取材・撮影=三宅敏】